• 桑野 健介

ベルヴィ香椎、施工不具合問題は JR九州・若築建設ら業者の勝利!



 福岡東区の分譲マンション「ベルヴィ香椎 六番館」(以下、六番館)が傾斜している問題について、販売会社である若築建設(株)・JR九州・福岡商事(株)の3社は、六番館区分所有者に対して3つの対応策を提示し、選択を求めた。
 販売会社らが示した案は、下記の通り。
(1)改修(杭の補修)
(2)六番館の解体・建替え
(3)六番館各住戸の購入価格での買い取り
 現時点では、「六番館の解体・建替え」を希望する区分所有者が多いという。六番館の「建替え」は「ベルヴィ香椎」の区分所有者にとって、最良の解決方法となるのだろうか。協同組合ASIO代表理事の仲盛昭二氏の意見を聞いた。

 ――マンションが傾斜していると問題になっていた六番館について、「改修(杭の補修)」「建替え」「買い取り」の3つの案が販売会社から提示されました。六番館の区分所有者の間では「建替え」を希望する意見が多いとのことですが、「建替え」は区分所有者にとってもっとも良い解決策と考えていいでしょうか。


 仲盛 販売会社が提示した3つの案のうち、「杭の補修」については、支持地盤に到達していない杭の周囲の土をセメント混和剤で固め、計算外として、杭の周面摩擦力に期待する方法のようです。現在、杭には建物の大きな軸力が作用し続けています。補修後も耐力のない不安定な杭に大きな軸力が作用し続ける状態、すなわち建築基準法違反である耐力不足が続くことになるため、強度は回復しません。この方法では、マンションの資産価値は下がったままになってしまいます。


 ――「六番館の建替え」は六番館の区分所有者にとって、もっとも良い解決のように見えますが、どうですか。


 仲盛 「建替え」を希望してきた六番館の区分所有者にとって、一見すると「建替え」が実現されるのは望ましいと感じられるかもしれません。しかし「ベルヴィ香椎」における問題は六番館だけではありません。他の棟においても、構造スリットの未施工が判明していますが、販売会社は、今回の対応策のなかで、六番館以外の構造スリットの問題についてはまったく触れておらず、「六番館以外の棟は置き去りにされた」状態とも言えます。この解決策は、六番館のことしか考えていない佐々木特別理事と岩山建築士が主導したものであり、六番館以外の棟の区分所有者が納得できる説明をすべきだと考えています。


 ――六番館だけの「建替え」であれば、六番館の区分所有者だけで決議をすれば良いのではないでしょうか。


 仲盛 「ベルヴィ香椎」は複数の棟で構成される「団地型マンション」であり、各棟の管理組合を束ねているマンション全体の管理組合があります。団地型マンションのうちの1棟を建替える時は、「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」第62条による建替えの特別決議(区分所有者・議決権の5分の4以上による決議)に加えて、同法第69条により、団地全体の区分所有者の4分の3以上による承認決議が必要です。


 ――六番館だけの決議だけでは、「建替え」は不可能ということですね。構造スリットの未施工などの問題を「存在しないもの」として扱われた六番館以外の区分所有者は、同意するでしょうか。


 仲盛 「ベルヴィ香椎」の六番館以外の棟も傾斜地に建てられており、六番館と同じ若築建設らのJVで施工されているため、杭が支持地盤に届いていない可能性もあるかもしれません。六番館以外の区分所有者は、「自分の棟もきちんと調査をして、法律に適合した安全な状態に是正してほしい」と考えるのではないでしょうか。


 六番館の建替えについて、他の棟の区分所有者の4分の3以上の方が同意して決議されたら、六番館以外の棟は今後、調査とともに是正もされることはないでしょう。六番館の問題による風評被害で、他の棟の資産価値も下がっていると聞いています。このまま「建替え」を進めてしまうと、下がってしまった資産価値を取り戻す機会を永遠に失うことになります。


 ――六番館の建替えには、多くの困難が立ちはだかっていますね。



 仲盛 六番館の「建替え」に関して、「ベルヴィ香椎」全体の4分の3以上の同意を得ることは、かなり難しいと考えています。六番館以外の棟の区分所有者からも、不具合の調査を希望する声があると聞いています。


 JR九州や若築建設ら販売業者にとって、六番館の「建替え」についての「ベルヴィ香椎」全体の4分の3以上による承認決議が認められれば、六番館以外の棟への補償は考えずに済みますし、承認決議がなされなかった場合は「建替え」をせずに済むので、いずれにしても有利な結果となります。


 本来目指すべき対応策は、「ベルヴィ香椎」全体の瑕疵の調査と是正を行い、六番館の「建替え」以外に是正する方法がなければ「全棟建替え」を行うことではないでしょうか。


 ――六番館の施工不具合問題では、なぜ他の棟が抱えている問題を置き去りにして、結論を急いでいるのですか。


 仲盛 マンションなどの堅固な建物の瑕疵担保期間(販売者の責任を追及できる期間)は、引き渡しから最長で20年(除斥期間)です。「ベルヴィ香椎」の問題では、時間を無駄に費やし、すでに引き渡しから20年以上経過してしまいました。このことは販売業者のJR九州・若築建設・福岡商事にとっては絶対的に有利な状況であり、交渉が長引くと開き直ることも考えられます。


 六番館の理事会としては、除斥期間の20年を過ぎているため、販売業者が提示した条件で早くまとめたいと考えているのではないでしょうか。六番館の区分所有者は、20年以上の貴重な時間を浪費して問題解決を遅らせた特別理事に対して、損害賠償を請求してもおかしくない状況です。


 販売業者が開き直ることを防ぐ有効な方法は、六番館以外の棟の区分所有者が販売業者に対して、徹底的な瑕疵の調査と是正を求めることです。


 ――六番館理事会は、なぜ 20年以内に具体的な行動を起こさなかったのでしょうか。


 仲盛 私も不思議に感じています。竣工後の早い段階から不具合が発生していたのですから、いくらでも交渉はできたと考えていますが、交渉がうまくいかなかったのでしょう。管理組合から依頼を受けた岩山建築士は、販売業者が今回提示した解決案について、「20年を越えたマンションで建替えを実現した例は、聞いたことがない」と語っていますが、はたして本当のことでしょうか。


 「建替え」に至るまでのハードルが高いため、区分所有者にとっては決して最良の方法でないことや、販売業者の深い思惑を考えると、「ベルヴィ香椎」の全棟での解決を最優先して考えるべきです。


 ――改修や建替えが現実的でないならば、残された選択肢は「買い取り」です。購入価格での「買い取り」は、区分所有者にとってメリットがあると感じますが、どうですか。


 仲盛 多くの区分所有者は、「建替えができないなら、購入した値段で買い取ってくれれば問題ない」と考えるかもしれません。しかし、「買い取り」に合意すると、マンションに設定されている抵当権を抹消しなければならず、そのための現金を用意しなければなりません。


 多くの区分所有者は、長期の住宅ローンを組んでいます。35年ローンならば初めの20年ぐらいは金利の支払いのみで元本は減らず、残り15年ぐらいから実質的な元本の返済が始まります。竣工後25年が経っている「ベルヴィ香椎」でいうと、元本の返済がようやく始まったところです。そのため抵当権の問題を解決しても、買い取り価格に近い金額をそのまま金融機関に支払う必要があり、「買い取り」で得られた現金は、手元にほとんど残りません。


 住宅ローンという借金はなくなりますが、新たな住まいのためにもう一度、住宅ローンを組み直すか、賃貸マンションなどに住まざるを得なくなります。20年以上にわたって住宅ローンを返済しても手元に何も残らないという、やるせない気持ちに包まれることになります。「買い取り」が最良の解決策といえるかは疑問です。


 ――販売業者が六番館の全住戸60戸を買い取ったと仮定すると、全棟の区分所有者286戸に対して、議決権としては大きな影響力をおよぼすと考えられます。


 仲盛 販売業者が「ベルヴィ香椎」全体に対して約2割の議決権をもつことになるため、全体の管理組合内で強大な発言力をもち、主導権を握ることになると考えられます。これも販売業者の狙いの1つです。つまり、販売業者にとって、「改修」「建替え」でも「買い取り」のいずれを行っても、自分たちの考える方向に物事を進めることができるため、区分所有者にとっては圧倒的に不利な状況であることに変わりはないのです。この事実に気づかず、六番館のみを対象として提示された対応策の案に飛びついた佐々木特別理事や岩山建築士の浅慮は、結果的に「ベルヴィ香椎」全体の区分所有者を苦しめることになります。


 そのような事態を防ぐためには、先ほどお話したように、六番館以外の区分所有者が、「すべての棟の調査と是正を求める」声を挙げる以外に方法はありません。六番館のみの「建替え」に同意すれば、他の棟の調査や是正の機会は完全に失われることになります。


 ――販売業者が六番館の全住戸60戸を買い取った場合、強大な区分所有者の集団が形成できることがよくわかりました。全戸を「買い取り」した場合、六番館の強度不足は解消されないままになりませんか。


 仲盛 その通りです。事実上は販売業者が六番館管理組合の実権を握ることになるため、杭の補修を行う必要もなくなります。そして、「ベルヴィ香椎」のなかに、耐震強度が不足した違法な状態のマンションが存在し続けることになります。もし大地震が発生して六番館が倒壊した場合には、ほかの棟の住人に被害を与える可能性もあります。敷地内の通路を塞ぐことや、自動車などを破損させることも考えられます。


 そのような危険を残した状態であれば、六番館以外の棟の部屋を売却する際に資産価値が下がる要因になり、売却が困難になることは容易に想像できます。危険な状態のままの六番館が残るならば、他の棟の区分所有者は、行政(福岡市)に対して「違法建築物の撤去の仮処分申請」を行えば良いのではないかと考えます。今回の施工不具合を六番館のみに留まらず、「ベルヴィ香椎」全体の問題と考えなければ、必ず後悔することになります。


 ――鹿児島のマンションの欠陥に対する若築建設の対応の酷さを訴えるメールが、NetIB編集部に届きました。このマンションでは、外壁のタイルが剥がれて落下したため下の駐車場の自動車が破損したほか、マンションの各部で漏水が相次ぐなどの事態に悩まされ、若築建設は補修を実施したものの、不完全だったため、現在でも漏水は解決されていないといわれています。

 補修が不完全だと指摘された若築建設は「バルコニーに置かれた温水器の誤った使用方法が漏水の原因」として開き直るなど、不誠実な対応を続けていると聞いています。


 仲盛 私の専門は建築構造のため、漏水については専門外ですが、これまで見てきた現場では、コンクリート内の水は思わぬところまで浸み込むため、根本原因となる個所を特定することが難しいという面はあるようです。ただし、建築関連法規や仕様書に則って施工と監理が行っていれば、大規模の漏水が発生する可能性は低いと考えています。


 ――若築建設は海洋土木を主体とした建設会社であり、初めて手がけたマンションの建設が「ベルヴィ香椎」でした。「ベルヴィ香椎」から10年以上が経ってから建設された鹿児島のマンションでも、若築建設のマンション施工技術は進歩していないように感じられます。また、鹿児島のマンションの状況を視察にきた若築建設の幹部は、不具合の写真ではなく桜島の写真を撮り、SNSに投稿していたと聞きました。


 仲盛 海洋土木工事とマンション建設工事では、求められる技術がまったく異なります。普通の企業であれば、不慣れなマンション工事で施工ミスを起こした場合、その反省を踏まえて、技術の向上に努めるはずです。しかし、若築建設は相変わらず施工ミスを繰り返していることから、反省を踏まえて技術向上を図る企業ではないようです。


 「ベルヴィ香椎」や鹿児島のマンションにおける対応を見ると、若築建設という企業の体質がよくわかります。「ベルヴィ香椎」については、販売業者側が提示した条件を小躍りして受け入れるのではなく、その裏に隠された魂胆を見抜き、「ベルヴィ香椎」全棟の区分所有者が救済される方法を選んで行動するべきだと考えています。


【桑野 健介】

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