• 桑野 健介

傾斜したマンションについて若築建設が謝罪



若築建設社長が謝罪

 福岡東区の分譲マンション「ベルヴィ香椎 六番館」の施工不良は、5月8日、販売会社JV(若築建設・JR九州・福岡商事)が六番館管理組合に対し謝罪し、翌9日には 施工会社である若築建設の五百蔵社長が謝罪に訪れた。若築建設は、杭が支持地盤に届いていないことを謝罪し、全ての杭について調査を行うとした。


 若築建設は、主に海洋関係の土木工事・港湾施設の建設工事を行う、いわゆる「マリコン」である。その歴史は古く、1890年に筑豊で採掘された石炭の積出港を開発・運営する目的で 若松築港会社を設立。1965年若築建設株式会社に社名変更。従業員数724名(2019年4月1日現在)、2019年3月期売上高996億円、経常利益は44億円となっている。港湾工事を主体とした若築建設が初めて建築・分譲に取り組んだマンションがベルヴィ香椎である。現在の社長である五百蔵良平氏は ベルヴィ香椎分譲を担当していた。


 説明会に参加した区分所有者を前に、若築建設の五百蔵社長は「全ての杭(27本)の調査をさせていただきたい」「施工時に下請けとの齟齬(そご)があったと思う」「福岡西方沖地震や熊本地震の影響について管理組合と見解が分かれている」「調査次第で、安心できるものを提示したい」と謝罪した。


 杭が支持地盤に到達していない建物において、支持地盤まで杭を延長することは不可能だとしても、適正な状態に戻す方法はあるのだろうか?構造設計一級建築士・ 仲盛昭二氏に話を聞いた。


 ――ベルヴィ香椎の杭が支持層に到達していないことについて、8日に販売会社JVが、10日には若築建設の社長が、六番館管理組合に対して謝罪をしました。今後、全ての杭の長さについて、若築建設が調査を進めるということですが、杭長が短い状態を是正する方法や、傾いたマンションを基に戻す方法はあるのでしょうか?


 仲盛氏(以下、仲盛) 特別理事たちが区分所有者に語っていた方法は、沈下した部分を持ち上げる工法(リフトアップ工法など)ですが、この工法は木造などの軽量な建物に限られます。ベルヴィ香椎のような鉄筋コンクリート造(RC造)のマンションを無理に押し上げれば、現在不具合が出ていない箇所にまでひび割れなど、想定外の事象が起こることが予想されます。


 今後 裁判になった場合、実現不可能なことを要求しても裁判では不利になるかと思います。例えば、交通事故で亡くなった方の裁判において、遺族が「生き返らせて下さい」との請求が通らないのと同じです。その代わりに、賠償金の補助的請求に帰結するのだと考えます。


 沈下した部分を持ち上げるのではなく、これ以上の沈下を止めるために、杭の先端と支持地盤との間をグラウト(セメント系の流動体)などにより固める方法は考えられます。この方法は比較的安価で可能と思われますが、地震が発生した場合、固めた部分の周囲の土や砂が緩み 固めた部分がずれて、建物を支えることができなくなる可能性があります。


 杭が短い場合の対処方法の選択肢が少ない状況でも調査を行うのであれば、ゼネコン側と管理組合側の技術者、及び第三者の技術者が常時立ち会う公開の下で行わなければ、信憑性に疑念が付きまといます。


 ――仲盛さんは、「ベルヴィ香椎は、構造スリットが施工されていない」と指摘されていますが、杭長が短い問題と構造スリットの問題を、若築建設が同時に解決することは考えられないでしょうか?


 仲盛 構造スリットがなければ、大地震でなくても不具合が生じます。私は施工中にスリットが施工されていないことを確認しており、設計当時の構造計算プログラムにて部分的に検証をしてみたところ NGということが判っています。若築建設が これを否定するのであれば、構造スリットが施工されていることをすべての棟の全住戸の専有部分にまで立ち入り調査をすべきです。また、若築建設が「構造スリットがなくても問題ない」と主張するのであれば、法的・客観的に立証をすべきです。全棟全戸について構造スリットの施工状況を調査するためには、居住中の部屋に立ち入る必要があるので、区分所有者の了解を得なければならないことを考えると、調査を実施することは難しいと思われます。


 私が若築建設の立場として考えれば、六番館の特別理事たちが 構造スリットの問題に踏み入らないことを幸いに、「全ての杭の調査を行います」と頭を下げることは理解できます。逆に、特別理事たちが、全棟の構造スリットの問題を若築建設にぶつけないことに非常に違和感を覚えます。私の眼には、構造スリットのことを避けているようにしか映らず、自分たちの棟さえ問題解決できれば 他の棟は関係ないというようにも感じます。構造スリットの問題などは 六番館以外の棟に関しても大問題なので、マンション全棟の問題として解決しなければ、六番館以外の棟の区分所有者は解決の道を失うことになります。


 ――なぜ、若築建設は 六番館の全ての杭を調査すると表明したのでしょうか?


 仲盛 若築建設が杭の調査を行うことを表明したのは、支持地盤に届いていない杭があったとしても 問題ないレベルの杭耐力であることを示したいためだと推察します。私が若築建設の立場であれば、杭耐力が問題のないレベルであることを示すと同時に、マンションが傾いた原因は杭だけではない可能性が高いと主張するでしょう。これに反論する為には、今度は管理組合側が立証しなければならなくなります。


 ゼネコンの姑息な対応の例として、久留米市の欠陥マンションにおける鹿島建設の対応の例があります。鹿島建設は、図面に明記されている各階30本の重要な梁を施工しなかったことについて、「図面通りに施工しなくても安全性に問題がないから施工しなかった」と主張しました。


 ゼネコンは このような傲慢な対応をすることがあるので、私は別の攻め口を助言したのですが、六番館管理組合の特別理事らは聞く耳を持たないようです。現在、六番館以外の区分所有者にも動きが出てきています。いずれ行動を起こされるのではないかと思います。


 ――若築建設は 構造スリットを施工していないことを認識しているとかんがえられますか?


 仲盛 現在は 六番館の杭関係の追及のみに絞られています。私は、この杭関連の追及に異を唱えている訳ではありません。しかし、ゼネコンというものは 前述のような対応をすることが多いので、助言をしているだけです。


 他の棟にも重大な問題が判明しているのに、六番館の問題だけとして済まそうとしていることが理解できません。構造スリットの問題は 若築建設も認識していることです。この構造スリットの検証作業は、それ程 時間と費用を要するものではありません。住戸の室内側において、第三者立ち合い(中立性を担保出来うる)の下、公開検証・確認することから、始めれば良いかと思います。


 ――前回、六号館の構造計算書が紛失しているというお話がありましたが。


 仲盛 特別理事のS氏によれば、当初 「六番館のみ構造計算書が存在しておらず、他の棟はあります」ということでしたが、その後、「全ての棟の構造計算書がありません」との連絡がありました。私が 構造スリット未施工などの問題点を指摘していたので、急きょ、「構造計算書がない」と隠蔽をされたと直感しました。


 私が構造スリット未施工などの問題点を指摘した理由は 「区分所有者のため、毀損されたものを取り戻させる」というものでしたが、特別理事S氏は 何を勘違いされたのか構造計算書の隠蔽に走られたようです。私が提起した問題は全棟に及ぶ重要な施工瑕疵を暴くためのものです。構造スリットという、施工業者の最大の急所を突くべきなのに、構造計算書の隠蔽に走る構図が理解出来ません。


 ――特別理事のS氏が 構造計算書を隠したのであれば、区分所有者から開示を求められても開示できないことになりますね。特別理事たちの行為にはチグハグな印象を受けますが。


 仲盛 問題点の一つである杭長問題を追及するだけでも 20年もの時間と費用が掛かっています。その20年間、若築建設・JR九州・福岡商事に反論され続けていました。今後、この杭問題だけを最終決着するには、最低3〜5年はかかると考えます。私の主観で述べるならば、決定的な証拠を突きつけて現行犯逮捕的な素早い行動が必要かと思います。


 六番館理事会の 閉鎖空間での強権的な議論に嫌気を感じたマンション住民の一人が、単独での提訴の準備をされています。裁判は、基本的に公開原則なので、若築建設ら大企業の違法・隠蔽などを司法の場を通して、また 世論に訴えて糾弾したいと言われています。もちろん、その際には、私も全面的に協力する予定です。


若築建設のホームページには、「コーポレートガバナンスを充実させ、防災活動や地域交流にも積極的に取り組み、建設業としての社会的責任を果たしてまいります。」という社長あいさつと、「品質と安全を核とした施工により、お客様の信頼を高め、社会に貢献する」という経営理念が紹介されている。ベルヴィ香椎の全ての棟の区分所有者に対して、若築建設が経営理念や社長の言葉と違わない対応をされることを望みたい。

【桑野 健介】




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