• 桑野 健介

傾斜マンション、JR九州・若築建設は杭長不足のみ謝罪


 福岡東区の分譲マンション「ベルヴィ香椎 六番館」(以下、六番館)の杭施工不良に関する調査が終了し、販売会社である若築建設(株)・JR九州・福岡商事(株)の3社が21日、住民側に謝罪したという報道があった。若築建設ら販売会社は、どこまでの瑕疵を認めたのか、さらに建物が本来有すべき性能を取り戻すことは可能なのか、このマンションの不具合を指摘していた協同組合ASIO代表理事の仲盛昭二氏の意見を聞いた。


 ――六番館の基礎杭の調査において、「25本の杭のうち8本が支持層に届いていない」という結果について、若築建設らが改めて謝罪しました。


 仲盛 支持層に届いていない杭の下部分や周囲を固めるという方法は考えられますが、法的に担保できる補強工事は不可能であり、解体・建替え以外に方法がないため、とりあえず謝罪したということでしょう。そのうえで、開閉が困難な扉の修理や傾斜した部分を平らに補修するなどの応急処置を行い、終了にする予定かもしれません。


 これは、一度謝罪をしておけば、それ以上追及をされないことを狙う、マンション販売業者やゼネコンの常とう手段で、時間の経過とともに風化するのを待つつもりだと考えています。


 ――以前、仲盛さんが指摘されていた「構造スリットの未施工」や「構造計算書」の問題については、若築建設らからの説明はなかったようです。


 仲盛 若築建設が謝罪したということですが、「基礎杭の杭長が短かったこと」についてのみの謝罪であり、「構造スリットが施工されていないこと」(現行犯)には触れられていません。構造スリットが施工されていないことは、六番館だけではなく、他の棟にも共通している重大な問題です。



 五番館・七番館・八番館なども含めて、構造スリットの施工状況を調査し、図面通りに是正工事を行わなければ、大地震が発生したときに、建物に大きな被害を与えます。私は、構造スリットの問題を何度も提起してきました。しかし、管理組合は私の提起に耳を貸さず、六番館の基礎杭の長さの問題のみで、不具合への処置を終わらせようとしています。


 ベルヴィ香椎の欠陥に関する紛争には、20年以上もの時間を費やしています。目ぼしい進展もないまま、法的に責任を追及できる期間(除斥機関)が過ぎてしまったため、販売側・施工側にとって逃げ切りやすい状況となりました。

 このマンションの欠陥は本来であれば解体・建替えが必要な欠陥ですが、業者側は応急処置のみで終わらせようと考えて、謝罪をしているのです。業者側の意見が通らなければ、最終的には除斥期間を理由として逃げることができます。除斥期間を迎えるまでに解決できず、除斥期間を過ぎてから「謝罪を受けた」といって喜んでいる場合ではないと考えています。気づかないうちに、業者側の思惑通りに進んでいるのです。


 なぜ、「構造スリットの未施工」を問題にしないのか、なぜ、六番館以外の棟については触れないのか。私の目には、六番館管理組合が、相手の最大の弱点を意図的に避けているようにしか映りません。


 ――仲盛氏が「構造スリットの未施工」や「構造計算書」の問題を指摘されたのは、どのような経緯からですか?


 仲盛 昨年末に、六番館の特別理事から相談を受けました。杭長の調査は、実施する予定とのことでした。構造スリットが図面通りに施工されていないことや、構造計算において、柱梁接合部の検討が行われていない可能性が高いことは容易に想像できたため、六番館以外にもかかわる重大な問題として、調査をした方がいいと進言しました。


 その後、五番館以降に建設されたすべての棟は、図面に明記された構造スリットが施工されていないと、特別理事から聞きました。私は、「六番館以外の棟の区分所有者のためにも、若築建設らに対して、構造スリットと構造計算の問題をぶつけるべきだ」と提案しました。しかし、どういうわけか、六番館管理組合・特別理事の佐々木氏や調査に関与した岩山建築士は、杭長のみを調査し、若築建設と交渉を進めています。


 ――傾斜が問題となっている六番館ですら、構造スリットの調査は行われておらず、基礎杭の長さの調査のみだったようです。若築建設ら販売会社は、構造スリットの調査を行わず、六番館の基礎杭の補強のみで処置を終わらせるつもりでしょうか。


 仲盛 六番館の構造スリットの調査を行うと、他の棟でも調査が必要になるため、若築建設らは、同調査を避けたいと考えていたはずです。本来であれば管理組合側が、全棟の構造スリットの調査も強硬に申し入れるべきでした。


 六番館の基礎杭の調査のみにとどまったことは、六番館管理組合と若築建設の間で何らかの理由があったと考えられます。しかし、若築建設の意向に沿って決着をつけることは、六番館などすべての棟の区分所有者のためにはなりません。この結論を、区分所有者が異論もなく受け入れていることは、客観的な立場の私から見ると不思議でなりません。


 ――六番館の管理組合は、構造スリットや構造計算の問題をなぜ避けたのでしょうか?


 仲盛 調査に関与した岩山建築士は構造の専門家ではありません。もし構造専門家であれば、構造スリットの重要性を理解しているはずですが、構造の素人であれば理解できない領域かもしれません。


 私は、構造の専門家の立場として相談を受け、六番館のみでなくすべての棟の区分所有者に最良の結果となるよう進言したつもりです。しかし、六番館・特別理事の佐々木氏や調査に関与した岩山建築士は、問題提起をした私を管理組合の会合の場で非難し、データ・マックス社にも脅迫めいた文書を送っています。


 ちなみに、久留米市内の欠陥マンションの問題で、岩山建築士と行動をともにしているMという人物が、理不尽にも管理組合を相手に1億円の損害賠償を請求した事件がありました。もちろん、この請求は裁判所から棄却されています。


 私は全棟の区分所有者のために進言をしたつもりですが、非難されることは心外です。「六番館以外の棟も風評被害を受けた」という意見があるそうですが、構造スリットが施工されていないことを隠して売却をすると、その売買契約は無効となります。マンションの資産価値を守ろうと考えているのであれば、若築建設らに、既存された資産価値に対する保証を求めるべきです。


 ――構造スリットとは、それほど重要なのですか。


 仲盛 福岡県西方沖地震のときに、中央区の構造スリットが施工されていなかったマンションにおいて、玄関扉の開閉ができない、大きなクラックが入ったなどの被害がありました。熊本地震では、構造スリット未施工のマンションで、さらに多くの被害が発生しました。構造計算は、構造スリットがある前提で行われているため、図面に示された構造スリットが施工されていなければ、設計で想定したより数倍の大きな力が柱や梁にかかり、破壊に至ることは、容易に理解していただけると感じます。


 ――施工会社はなぜ、図面通りに構造スリットを施工しなかったのでしょうか?


 仲盛 構造スリットを設けるには、手間と費用がかかります。仕上げをしてしまうと施工しているかどうかが見えなくなるため、手抜きをしやすい部分です。建設工事は当然、構造スリットを含めて見積もりし、契約していますので、構造スリットを施工していないことは重大な契約違反です。


 このマンションでは、若築建設が建築主でありながら施工業者でもあるため、施工の瑕疵を追求できない立場であると同時に、コストダウンを図りやすい体制であったことも間違いありません。


 ――先日、大手マンション販売会社が分譲した福岡市内のマンションにおいて、構造スリットの未施工が判明し、販売会社はマンション全体の構造スリットを追加施工することを決定したという事例がありました。これがマンション販売側の通常の対応だと感じますが・・・。


 仲盛 マンションの区分所有者は、図面や構造計算書通りに建てられたマンションに対して対価を支払うものであり、図面通りに施工されていないマンションに満額を支払う理由はありません。住宅ローンも、減額されて当然です。


 マンション販売会社は マンションを本来の姿(本来の耐震強度)に戻せばよいだけです。構造スリットが施工されていないのであれば、施工すればよいのです。六番館に限らず、他の棟も構造スリットを施工すればよいのです。


 若築建設らが構造スリットの問題を避けているのは、他の棟まで施工すれば費用が相当かかるからです。そもそも構造スリットを手抜きして利益を上げようという卑しい思想で建築を行っているのですから、問題解決の費用を渋るのでしょう。そのような若築建設に寄り添ったかたちでの決着方法を受け入れている六番館管理組合は、区分所有者のためになる解決を目指しているようには見えません。


 ――管理組合側は、構造スリットの件をなぜ追求しないのでしょうか?


 仲盛 管理組合と業者の間で、何らかの申し合わせがあるのかどうかは知る由もありませんが、管理組合があえて構造スリットの問題を追及しないことは、第三者から見れば不思議でなりません。六番館以外の区分所有者から上がっていた、構造スリットの調査を望む声は完全に抹殺され、追及内容に反映されていないようです。


 ――構造計算においても、不適切な部分があったと聞いていますが?


 仲盛 不適切な設計・施工があっただろうということは、当時の状況から容易に推察できます。私は以前から 管理組合・特別理事に「構造計算書を見たら判別できるため、構造計算書を見せてほしい」と提案していました。しかし、特別理事は、構造計算書を見せることを頑なに拒み、ついには「六番館の構造計算書はなかった」と回答しました。

 実際に構造計算書が存在しないのかどうかはわかりませんが、私は、部分的に情報を入手しているからこそ主張しているのです。管理組合が「構造計算書はない」と答えたため、第三者である私は開示しないだけです。


 構造計算書を紛失したということは、建築確認の構造審査を適正に受けたことを客観的に証明することができないので、マンションを売却する際には、重要事項説明書にその旨を明記しなければなりません。この重要事項説明書を見た購入希望者は、適法性を証明されていないマンションの購入を見合わせるのではないでしょうか。


 六番館以外の棟であっても、構造計算書を見ると、構造計算の不備を見つけられるのですが、特別理事らは、「ほかの棟のことはどうでもいい」と考えているように見受けられます。


 ――仲盛さんは、アンピールマンションの構造計算の偽装について、マンション販売会社である新栄住宅(株)、設計事務所である(株)司建築設計や(有)群設計工房、福岡市に質問書を送られたそうですが、どのような回答でしたか。

 「相次ぐマンションの設計偽装~デベロッパーと行政の「不都合な真実」 仲盛昭二氏 緊急手記」 参照


 仲盛 いずれも回答は共通していて、行政(本件は、福岡市)が建築確認の審査において設計の偽装を見逃していたことを指摘したのに対し、「建築確認済証が交付されているため、当時の建築基準関係規定に適合している」という内容です。質問に対する回答が、まったく噛み合っていません。

 福岡市など行政は、偽装を見逃し交付された建築確認済証を根拠に「建築基準関係規定に適合」と回答することに、何の後ろめたさも感じないのでしょうか。


 私は、「構造計算書のどの部分をもって、建築基準関係規定に適合していると判断するのか?」と再度質問しましたが、1回目と同じ回答でした。


 建築確認申請の内容が虚偽ですから、当然、建築確認済証の効力は無効です。たとえば、先日、嘱託殺人(ALS患者に薬を投与)の罪で逮捕された医師は、海外の大学を卒業したと経歴を詐称し、医師免許を取得していました。不正に医師免許を取得した場合、もちろん、その免許は無効です。建築確認も同様に、不正に取得すれば無効なのです。


 福岡市が「確認済証を交付した」としか回答できない理由は、審査ミスを隠したいからにほかなりません。


 偽装を見逃した建築確認により建設されたマンションを購入した区分所有者は、価値に見合っていない住宅ローンを支払い続けています。マンション販売会社も行政も区分所有者も、何の疑問も抱いていないようですが、これは異常な事態なのです。


 設計や施工の偽装により耐震強度が不足していれば、このマンションの区分所有者は、地震発生時に近隣の住民にまで危害をおよぼす「加害者」という立場になるのです。区分所有者は、加害者となる道よりも、マンションの耐震強度・資産価値を取り戻すための行動を起こすべきだと考えています。また、既存された資産価値は取り戻すべきで、その方法は、解体・建替えに尽きると考えています。

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